大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)372号 判決 1965年9月21日

上告人

佐々木佐敏

代理人

荒井尚男

被上告人

昭和産業株式会社

右代表者

当摩喜蔵

主文

原判決および第一審判決中上告人に関する部分を左のとおり変更する。

上告人は被上告人に対し、被上告人から別紙目録記載の約束手形六通の交付を受けるのと引換えに、金二五〇万円及びこれに対する昭和三四年八月一六日以降完済まで年三割の割合による金員を支払え。

被上告人のその余の請求を棄却する。

上告人と被上告人との間に生じた訴訟の総費用は、これを二〇分し、その一を被上告人の負担とし、その余を上告人の負担とする。

理由

上告代理人荒井尚男の上告理由第一、二点について。

原判決挙示の証拠によれば、上告人佐々木が本件準消費貸借について連帯保証をした旨の原判決の認定した事実は、肯認しえないわけではない。

原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の裁量に属する証拠の取捨・判断、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。

同第三点について。

思うに、保証債務は、主たる債務に従たるものであるから、保証人は、主たる債務者に比し、その目的または態様においてより重い債務を負担するものでないことはもちろん、主たる債務者が債権者に対して有する抗弁権を行使しうるものとされ、要するに、主たる債務者より不利益な状態において債務を履行すべき責任を負わないものというべきであり、その理は、保証が連帯保証である場合においてもなんら異なるところはない。

ところで、貸金債務の支払確保のため債務者が債権者に対し手形を振り出した場合には、債権者が右手形を第三者に譲渡したときにおいても、右手形金額が支払われるか、または、債権者が裏書人としての償還義務を免れるまでは、貸金債務は消滅しないと同時に、債務者は、債権者からの貸金請求に対しては、二重払の危険を防止するため、右手形の返還と引換えにのみこれに応ずべき旨の抗弁をなしうるものと解されるが(昭和三九年(オ)第三七一号事件、昭和四〇年八月二四日当小法廷判決参照)、この場合においては、右貸金債務につき連帯保証をした保証人もまた、前示のごとき保証債務の性質にかんがみ、債権者からの保証債務の履行の請求に対し、前示手形と引換えにのみこれに応ずる旨の抗弁をなしうるものと解するのが相当である。けだし、保証の責に任じた保証人が主たる債務者に対し求償権又は代位弁済により取得する権利を行使する場合には、主たる債務者は、自らが債務を弁済した場合に比してより不利益な状態において、すなわち手形による二重払の危険を残しながら保証人の請求に応ずべき理由はないものと考えられるから、保証人に対しても、右手形と引換えにのみその請求に応ずべき旨の抗弁をなしうるものと解されるので、もし保証人が債権者に対し前示引換給付の抗弁をなしえないものとするならば、保証人は、主たる債務者に比してきわめて不利な状態において保証債務を履行する責に任じなければならない結果となるからである。されば、保証人は自己の求償権または代位弁済により取得する権利を行使する必要上、債権者に対し前示抗弁をなしうるものであり、しかも、自己に対する手形の交付を債権者に主張しうるものと解しなければならない。

しかるに、原審は、本件貸金債権の支払確保のため上告人主張のごとき約束手形六通(別紙目録記載のもの)が被上告人に対し振り出された事実を確定した上上告人らの引換給付の抗弁に対しては、右手形の振出人である新潟農林産業株式会社(主たる債務者)および山崎誠一(連帯保証人)については、右抗弁を採用しながら、連帯保証人たる本件上告人については、たやすく右抗弁を排斥しているのであつて、原判決には、保証債務の性質についてその判断を誤つた違法があり、論旨は、結局、その理由があるに帰し、原判決は、この点において、一部破棄を免れない。

そして、原判決の認定した事実関係のもとにおいては、当審において直ちに判決することができるものと認めらるから、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八四条、九五条、八九条、九二条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 石坂修一 柏原語六 田中二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例